Le chienV



穴掘れないナンパ

July 16, 2009

僕、ブルゴーニュ。

お姉ちゃまがナンパされた。


お姉ちゃまはナンパにも痴漢にも遭わない人だった。男の人達は賢明だ。お姉ちゃまをナンパしたって面白くないご返事がくるんだしね、痴漢は駅員さんのマイクを奪って発表されちゃうに違いないもの。

たくさんの人達がおしゃべりしようよって感じでやってくることはある。そんな場合お姉ちゃまは避けない。お紐で繋がってる僕も避けないことになる。

ワンコさわっていいですか? なんて学生服が僕たちを囲んだりする。僕は大人しく触らせてあげるんだ。お名前を聞かれて、ブルゴーニュっていうのよってお姉ちゃまがお答えする。僕は満足して、僕ブルゴーニュって呟いた。

学生服は、いえ お姉さんの名前ですよなんて言う。近頃の学生服は穴掘れない。
お姉ちゃまはカラカラ笑って、君たち大丈夫? お姉さんじゃなくてオバサンよ、よく見なさいと叱った。

こんな風な集団を避けないでちょっと言葉を交わすのは、お姉ちゃまが一杯持ってる主義ってものの一つだ。たくさんの中で発表することには好意的なんだ。それでもってこそこそした告白を毛嫌いしてるんだ。


**


だのにお姉ちゃまはこそこそしたナンパに引っ掛かってしまった。僕、お留守番してる日だったの。

彼はお姉ちゃまのすぐ前を歩いてた。道端でね、何回も振り返りながら歩いてた。物言いたげなお顔でね。そんなのって凄くこそこそしたことって思うけどなあ。そうしてね、とうとうお姉ちゃまのほうをそっくり見返って立ち止まったんだ。

お姉ちゃまはニコッて笑った。笑顔を見て彼は勇気を出したんだね。お姉ちゃまに接近しようとした。お姉ちゃまは優しそうなお顔で どうしたの? って尋ねたんだ。

彼は黙ってた。黙ってお姉ちゃまを見つめた。
お姉ちゃまは なあに? ってまたニッコリした。

彼が答えないから代わりに飼い主のお姉さんが答えた。"どうしたんでしょう、すみません。この子、怖がりで自分から人に近づかないのに・・・。"

お姉ちゃまはすっかりナンパに引っ掛かって、頭を撫でたり 彼はムーちゃんってお名前だって教えてもらったりした。ムーちゃんは白くてむくむくだ。
ナンパ成功したムーちゃんはお姉ちゃまを好きになった。そして交際に発展したんだ。

ムーちゃんはよく僕んちの前を通るようになって、お姉ちゃまと出っくわすとお座りしてお話をするようになったよ。
ムーちゃん、穴掘れないなあ!



口笛

July 08, 2009

僕、ブルゴーニュ。

僕はお姉ちゃまから生まれた。


気がついたとき、お姉ちゃまに抱っこされてた。もしお姉ちゃまが僕を生んだんじゃあなきゃ、お姉ちゃまに抱っこされてたはずないんだからね。
お姉ちゃまは言ったんだ。"君はブルゴーニュってお名前なのよ。" ってね。もしお姉ちゃまが僕を生んだんじゃなきゃ、お姉ちゃまがお名前つけるはずないしね。

"僕、ブルゴーニュ" って自己紹介は大切なやり方なんだ。お姉ちゃまがつけてくれて お姉ちゃまと繋がってるお名前だからね。


**


僕は抱っこされてお部屋に着いた。なにしろ僕はてんで小っちゃくてヨチヨチしてたんだからね。

お姉ちゃまのすぐお隣に毛布を敷いてもらった。僕は毛布の上からお姉ちゃまを見てたよ。目が合うたびに撫でてもらえた。もっと撫でてほしいから毛布から出てもっと近づいたらば、抱き上げられてうんとこさ撫でてもらえた。

生まれてお初におぼえたのはね、撫でてほしくなったらお姉ちゃまの側へ行けばいいってこと。

僕はいつでも撫でてほしかったんだ。だからいつでもお姉ちゃまにくっつくことにした。
毛布はすぐに要らなくなったよ。僕の場所は毛布じゃなくて、お姉ちゃまの側って決めたからね。


**


僕はお姉ちゃまから離れない。シーに行くときだけ離れなきゃなんない。シーしたくても離れたくないから我慢してることもある。我慢たまんなくなったらご不浄へ行くの。

僕がシーしてる間にお姉ちゃまも目を覚ました。夜中だったよ。お姉ちゃまはね、僕を呼びたいとピッって口笛を吹くんだ。

口笛は鳴らなかった。

お姉ちゃまはびっくりして何度も口笛を試したけど駄目だった。筋肉なんか麻痺すると口笛って吹けなくなるんだね。

でも僕には聞こえた。音はしなかったけど、聞こえたんだ。

僕は一目散にお姉ちゃまの側へ戻った。ご不浄からお庭を走って階段駆け上がって飛んで戻った。

僕は鳴らなくなった口笛が聞こえる。



ロコモコ

July 04, 2009

僕、ブルゴーニュ。

お姉ちゃまは包みボタンが好きだって。


ああクルミボタンね、知ってる。ピーナッツボタンやアーモンドボタンも可愛いんだよね。


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ある日お姉ちゃまはしゃがんで加減が良くないって言った。みんなは手を叩いて嬉しがった。
"良かった! 桜ちゃん加減が悪いの♪ やっと具合悪くなってくれたのね! " ってさ。

あ〜あ〜患者さんたちはとても気の毒そうに見てたよ。お姉ちゃまが虐げられてるって思ったんだね。いじめられてるってね。しゃがんでるのを助けもしないで手を打って派手に喜んでんだからね。

これにはね、事情があるんだ。

お姉ちゃまはご病気でも加減が悪いって気づかないほうなんだ。それって悪くなった原因なのだしね。お熱にも気がつかないんだしね。看護士さんが測ってお熱が高いってお初に知ったりしてね。仕方ないんだ。人には不得手なことがあるものだからね。

お医者様もご注意なさった。貴女の疲労の基準が必ずしも一般的とは限りませんって遠まわしにお叱りになって、それでもってお馬鹿なお人を見るような目でご覧になったんだ。

注意をしてもおナマな口答えばっかでみんなが困ってたからね。加減が良くないって言ったものだから大喜びしたんだよ。やっとやっと病気を自覚してくれたのねってね。
そんな事情さ。


**


それから1月半が経った。最初の炎症はだんだんにおさまって、治療ができるようになったから、お医者様はこれからのことをご説明なさったの。元気な歯を抜いてしまわなければならないかもしれないご説明をね。

歯を抜いてしまったらば、骨髄の病巣が取り除きやすいってことなんだよ。みなまでも除くことができないと また別な所にウイルスがまわるのだしね、そのほうが酷いことだからね。

だからね、歯をなくして骨の病巣除去をする。そうすれば安心なんだって僕は思ってたよ。違ってるんだ。
抜いたらばね、抜いた穴から また別な所にウイルスがまわるのだしね、そのほうが酷いことなんだ。

それってなんだよ!
おかしいよ。凄くおかしい。
それじゃあロコモコもないよ!

美味しいロコモコを食べられるようになるために骨のご病気を治さなきゃなんない。治すために歯を抜かなきゃなんない。するとロコモコが食べられなくなる。そういうのを "ロコモコもない" って言うんだ。

ロコモコを食べるためだのに 歯もなくなって場合によっては壊死した骨もなくなって、とうとうロコモコもなくなるようなことだよ。

明日は気の毒なお姉ちゃまが洗面所のお話をする。



遠慮

June 29, 2009

僕、ブルゴーニュ。

カミュ "イソジン" ってご本だ。
うがいをしましょうってお話じゃあないかな。多分ね。


**


ご親切な方々は、お見舞いに何がいい? って尋ねて下さるの。
そんな時、なんてお答えすると感じがいいだろうね?
お気持ちだけで嬉しいワ、なんてご返事すると女の人らしいお答えだね。

お姉ちゃまはお見舞いのお品を尋ねていただくとハキハキ言った。
-- トンカツとアイスクリーム!

次の人に聞かれるとまた言った。
-- トンカツとアイスクリームとスイカとテンプラ!

あれ? 増えたみたいだね。
希望のものは幾度か頂いたからね、今度は償却できてないメニューを挙げてるの。
-- 焼き春巻きと生春巻きとスペアリブとマンゴープリン!

食べ物ばっかだ。思いきり食べ物だ。僕はちょっと恥ずかしく思うけど、お姉ちゃまが元気いいならね 構わないんだ。オバチャンって呼ばれる人たちは、大体が遠慮ないものだからね。


**


造影剤が合わなかった日のことだったよ。
吐き気がするから一度座らせてほしいってお願いしたけどね、頭もお顔も固定されてね、動いちゃならなかったんだ。おでこベルトと仮面みたいな変テコなもので留められていたんだからね、気の毒だったよ。

終わってから待合に座ってるのを辛がって、診察をキャンセルしなきゃなんないくらいだったんだ。そりゃあ酷いことだったよ。なにしろ後で病院からおうちにお電話があったっくらいだもの。

それだのにね、吐き気にお口を押さえながらお会計で捻じ込んでるんだからね。私の番号まだ? ってね。バスに乗らなきゃなんないのよってね。勝手な患者さんばっかで事務のかたは大変なんだ。気の毒だね。

バスに間に合うようにお会計を済ませてもらえたからね、お姉ちゃま良かったねって思った。ところが、まだ来ないはずのバスだのに もうバス停に止まってたんだ。

お姉ちゃまはその場で大っきいお声を出した。
-- 待ってーっ!

バスはエンジンを吹かした。お姉ちゃまは日傘を振り回して叫んだ。
-- 乗せてーっ! ちょっとーっ! ねえーっ!

お姉ちゃまったら吐き気がしているんでしょう? それにね、待ってってったってね発車時刻ってものがあるんだからね。他のお客様にだってご迷惑なんだからね。

だのにバスは待ってくれたんだ。ご親切だね。お姉ちゃまは乗り込もうとしてから、もっと大っきいお声で運転席に向かって叫んだんだ。
-- 間違ったー! このバスじゃなかった、ゴメンねー!

バスは発車した。車内のお客様にもごめんねーって日傘を振り回してお見送りした。
僕はね真っ赤になりそうなっくらい恥ずかしかったけど、僕のお顔はいつだって黒いんだからね。仕方ないんだ。

お姉ちゃまは次のバスを待ってる人たちに話しかけながら近づいた。
-- 間違っちゃった。アハハ。まだ時刻じゃないんだのに変だと思ったわ。

それでもって、病院バスは本数が少なくて困るわねえだとか、タクシーだと随分かかるから絶対にバスに乗るんだわだとか、医療費の上にタクシー代なんてたまんないワだとか、知らない人にケチなことをいっぱい発表した。

僕はね、色々と恥ずかしい思いをしてるの。でもいいんだ、お姉ちゃまが元気いいならさ。



ミニ豚

June 25, 2009

僕、ブルゴーニュ。
アルバム僕のページにもドアーがついた。ドアーの中でブルゴーニュ語録が見られるようになったよ。


まだちょっぴりだけどね これから増えると思うもん。


**


ガクッ。僕はね、惑いの先を読んでガクってきた。ショパンのことなんか書いてまとめちゃってるけどね、何だか感じが違うんだもの。小さな慰めを求めないってお話はさ、僕が見たのと雰囲気が違ってるんだ。雰囲気がね、別なことだったよ。

よくよく知られてることだけど、お姉ちゃまはだいたいが男嫌いだ。ご病気なんだ。女の人みたく扱われるのが好きじゃないんだね。僕は男の人も女の人もみんな大好きだけどな。

どうしてそんなことになっちゃったか知らない。僕が生まれてないいつの頃を辿ったって、お姉ちゃまは男の人に変テコなっくらい冷たいんだもの。とても良くないことだよ。

うんとこさ優しくするのはね、女の子とワンコなんだよ。僕はワンコに生まれて得したなあって思う。

お姉ちゃまのことよく知って女の人みたく思わないお友達だけね、仲良しなんだ。男友達がちょっぴりお世話好きをするとお姉ちゃまは厳しくなる。お友達だのにね、気の毒だしね、いけないことだね。

骨髄炎って難しいご病気だからね、心配したお友達がお電話くれた。頭のMRIを撮ったから大変ごとだって思ったんだね。

あ〜あ〜お姉ちゃまは男の人が解決になんないようなクドクドした親切をするのが嫌いなのになあ。きっと非道なことを言うに違いないから僕は聞かないフリしてクッションに丸まった。頭がね、どうだったかせっかく尋ねてくれたんだのにね。ご返事なんか一言だよ。

-- キミよりマシ。

ほらやっぱり。
こんな言い方は "ミニ豚も無い" って言うんだよね。ご病気だから心配してくれてるのにね。

次にはお電話通じないのかなってメールだった。お電話に出ないと加減が悪いのかなってね、どうかしたのかなってね、とても心配したんだね。

あ〜あ〜お姉ちゃまはクドクドしたことを嫌ってるってね、ちょっぴりは憶えればいいのにね。憶えないんだからね。

お姉ちゃまは加減より機嫌が悪くなった。お行儀悪く舌打ちをして受話器を取り上げた。僕はクッションの間に深くもぐって寝たフリしたの。聞いてると気の毒になっちゃうからね。
お姉ちゃまったらご挨拶なしでただ一言なんだ。

-- うるさい。

ほらやっぱり。
ミニ豚も無い。



ひまわりボンボン

June 21, 2009

僕、ブルゴーニュ。

ねえお姉ちゃま・・・
お膝にお顔乗せていい?
今日まだ2回っきりしかビズしてもらってないよ。
ビズして。
おでこんとこにビズして。


僕はね、こんな風にお願いをする。お姉ちゃまは忘れっぽくてね、時々僕にビズするのを忘れるからさ。気をつけなきゃならないんだ。
してもらったらばお庭に出て、ひまわりボンボンでおやつにする。

ひまわりボンボンって知ってる?
ひまわりのお花の真ん中のね、美味しいところさ。
プチッてしてて具合がいいんだ。


花びらを散らさないように そっとね、美味しむんだよ。



買えなかった物

June 16, 2009

僕、ブルゴーニュ。

お姉ちゃまは加減が良くない。少し動いたらばハアハアなっちゃうし、舌は麻痺したままだ。


僕たちはね、膿んだときに頬っぺの辺りの神経が変テコになったのかもしれないって考えた。でもお医者様は脳を心配なさった。万が一異常が出てるなら怖いことだからって、先に頭のMRIを撮ることになった。

安静のお姉ちゃまは、お医者様の往復だけで日が過ぎるものだから腐っちゃった。だからね、ご近所へお買い物にお出かけしたの。ふらふらしたらばすぐにしゃがむお約束でもって僕らはゆっくり歩いてお出掛けした。

僕は輸入品を置いてるマーケットの前に繋がれた。お姉ちゃまはスグリのシロップを買いに行ったんだ。何故ってモーリヤックのお話に出てきたからさ。お姉ちゃまはご本に出てくる物を片端から口に入れたがるんだからね。昨日はリルケを読んで落とし卵が食べたくなったばっかだしね。

シロップはなかった。お姉ちゃまはがっかりして僕の綱を解いた。やっぱり。僕は知ってたよ。スグリのシロップはそんなにも沢山はお店に並んでないってね。

次には本屋さんの前に繋がれた。お姉ちゃまはラシーヌを買いに行ったんだ。何故ってジッドの主人公がラシーヌを読んで感激してたものだからね、真似っこしたくなったんだよ。お姉ちゃまはご本に出てくるご本を片端から読みたがるんだからね。

ラシーヌはなかった。お姉ちゃまは疲れたお顔で僕の綱を解いた。やっぱり。これだって僕は知ってた。僕らが住んでる小さな町の小さな本屋さんにアレクサンドラン詩行がレジ前に平積みになってたりしないってね。

今度はお花屋さんを覗いた。モネが育ててたからってずっと欲しがってる時計草は置いてなかったし、コレットの小説に出てくる青い薊も有りはしなかった。

次はどこへ行くの? って尋ねたらば、もう欲しいものはないって言った。本当に? だって何も買ってないよ? ってね、僕に必要なものを考えてくれるように仕向けてみた。それからもっと判りやすいように足踏みをした。だってそこは僕の好きなお店の前だったからさ。

やった。僕はワンコクッキーを買ってもらった。お姉ちゃまはまた何も買えなかった。



150円

June 12, 2009

僕、ブルゴーニュ。

久し振りにテレビが点けられた。
関西のオバチャンって呼ばれる人の項目が挙げられてた。


オバチャンはね、レジに割り込む人に "ちょっと! 並んでるわよ" ってすぐ大っきい声で言っちゃうの。やだなって思っても声が出ないようならまだまだオバチャンじゃあないんだって。

お姉ちゃまは全部の項目がオバチャンに当たった・・・


**


病院の自販機でお茶を買おうとした。お金を入れたのにお茶が出てこなかったの。
-- ねえ見て! 150円入れたんだのに、ほら出てこないの。ひど〜い。
お姉ちゃまは自販機の周りに居た人誰彼なく発表を始めた。誰にでも関係なくしゃべりかけるのはオバチャンの特徴なんだって。

-- もう診察の予約時間なのよ。ヤんなるわねぇ。
だとかって 知らない人に事情をいっぱい話しながらメーカーのダイヤルにお電話した。150円に固執してるって皆さんに思われてもちっとも構わないで したいようにするのはオバチャンの特徴なんだって。

メーカーは留守番電話だった。
-- ちょっとちょっと、自販機トラブル受付が留守電でどうするの? こっちは通りすがりなんだから。
って吹き込んで、周り中に留守電だったって発表した。いつでもどこでもタメ口はオバチャンの特徴なんだって。

次には売店にお出掛けしてって
-- お姉さんお姉さん聞いて頂戴。
って説明を始めた。誰にでも "お兄さん" と "お姉さん" だけでまかなうのはオバチャンの特徴なんだって。

売店のお姉さんは150円を返してくれた。お姉ちゃまはとても嬉しそうにアリガトって笑って売店でお茶を買った。売店は98円だった。52円お得だったら大儲けしたみたいな気持ちになるのはオバチャンの特徴なんだって。

お行儀悪くお茶飲みながら歩いてると、先刻の自販機で飲み物を買おうとしてる人を見た。
-- お兄さんお兄さんその自販機で買っちゃだめよ。出てこないんだから。あっちの売店はね、98円だったの。


**


僕はね、いいの。少しっくらい恥ずかしくても、お医者様でお姉ちゃまが元気いいならね、構わないんだ。

お姉ちゃまは舌の神経が痺れて2日が経つ。舌の皮膚感覚も麻痺してお話がし辛いのに あっちこちでこうしておしゃべりする。元気いいんだ。



非科学的

June 08, 2009

僕、ブルゴーニュ。

お姉ちゃまは倒れて肘んとこを擦りむいた。


猛烈に叱られた。寝てなきゃあならないのに、箒と塵取りを持って倒れたんだからね。お姉ちゃまってば あら箒があったから階段から落ちずにすんだのよって威張った。

お医者様は熱心で静かなお顔で、少し治り難いかもしれませんって仰った。

僕は怖くなってお尻尾が毛羽立ったの。お姉ちゃまは せんにも他の場所で同じご病気になったんだし、今度は麻痺も続いてる。僕は泣きそうになって、気の毒だね気の毒だねって言った。

お医者様はね、投薬は試してみなければどれくらい効果があるか判らないけれど 効く可能性は割合に高いって仰った。
お姉ちゃまはハキハキ質問をしてその場で治療を決めた。拒否反応が出れば入院になることを了承した。どうぞやっちゃって下さいって一言でおしまいにした。

看護士さんはね、拒否反応がないかよく見るためにとてもゆっくりと点滴を落として どこか変わったことはありませんかって何度も尋ねた。
お医者様は点滴途中でも お忙しい間に点滴室まで様子を見に来て下さった。

その度にお姉ちゃまは、ご本を読む片手間にへっちゃらでお答えした。

-- 大丈夫。これは効くんだし、すぐに楽になるんだし拒否も出ないわ。

そして非科学的な説明をしたの。折角お薬を入れながら駄目かも駄目かもなんて思ってちゃ効くものも効かないわよ、ってさ。
これは痛み止めよって思い込ませてビオフェルミン1粒飲ませてごらんなさい、痛がらなくなる人は多いものよ、ってさ。

乱暴だなあ。そして非科学的だなあ。でも人の気持ちは非科学的で、人の身体は人の気持ちに忠実だからね。

お姉ちゃまは腕に刺さったチューブを見てにっこりした。大丈夫、これは私にとっても合ったお薬でどんどん効いてるんだわって。

お姉ちゃまは薬剤拒否反応は出なかった。
僕はお姉ちゃま不在拒否反応が出た。

お姉ちゃまがお留守の間お腹がピーになった。お姉ちゃまが帰ってきたらば直った。
僕の気持ちは非科学的で、僕の身体は僕の気持ちに忠実なんだ。



嘘苺

June 06, 2009

僕、ブルゴーニュ。

嘘苺が赤くなった。
お庭に植わってる嘘苺は、決して食べちゃいけないんだって。


食べると嘘つきになって、誰にも信じてもらえなくなるんだって。
だからどんなに綺麗でいい匂いがしても 食べちゃ駄目なの。
嘘苺の嘘のお誘いだからね、危険なんだ。

僕が危険な目に遭わないようにってね、嘘苺が赤くなるとお姉ちゃまが摘み取って僕の見えないところへやってくれる。


**


僕のお顔を見るたびごとに、ご近所さんは言う。

"ブルゴーニュ君、お姉ちゃま大変なんだから助けなくちゃ駄目なのよ。"
"ブルゴーニュ君、ちゃんとお手伝いしてる? 頑張るのよ。"

僕、うんとこさお手伝いしてるんだよ。みんな知らないんだね。僕にしかできない大切なお役目があるんだから。

お姉ちゃまはちょっとでも動かない時とっても寒がるんだ。点滴中も寒い寒いって毛布とお布団2枚着せてもらったんだのに凍えて冷たくなっちゃった。看護士さんがびっくりして擦ってくれた。看護士さんはね、明日はオコタを入れなきゃって言った。

おうちでは僕がお姉ちゃまを一生懸命暖っためるお役目だ。お姉ちゃまは真冬のうちから6月になっても電気シーツでねんねしてる。それでも寒がるから 僕がぴったりくっついて暖っためる。

僕のたくさんのお勤めの中で、一等好きなお役目だ。それでもって一等好きなお役目はあと10個っくらいある。


**


ナイチンゲールちゃんはお姉ちゃまに厳しく言った。

"ホントにちゃんと寝てる?
動き回ってるんでしょ! "


僕はね、ナイチンゲールちゃんに言おうとしたよ。お姉ちゃまは、古くなったパパのお寝間で台拭きをこしらえてたよって。

だのにお姉ちゃまは うんちゃんと寝てるってお答えした。
きっと嘘苺を食べちゃったに違いないね。



育たない物

June 04, 2009

僕、ブルゴーニュ。

お姉ちゃまの病名は骨髄炎だった。


僕は泣きそうになって、気の毒だね気の毒だねって言った。お姉ちゃまはうんとこさ安静にして、毎日点滴を受けなきゃならないことになった。


**


これは僕んちのスコップだ。
お姉ちゃまは育てる物だなんてのがお得意だけど、スコップは育たないって僕は思う。

金魚すくいと間違えてるんじゃないかなあ。破れてないところを探して掬っても お砂は落っこちるんだもの。新しいスコップ買わないの? って聞いても、これより好きなスコップが見つかったらねってさ。

そのうちすっかり穴が空いたらば、お姉ちゃまが次にすることは想像がつくよ。お庭に飾る気だ。決まってるよ。きっと花壇なんかにスコップ挿しちゃってね、飾るんだ。スコップ植えても育たないのにさ。


**


お姉ちゃまはお買い物が苦手なんだ。

どれっくらい苦手って、洗顔フォームがないんだ。


清潔にしてればいいんでしょナンテね、身体洗う石鹸でお顔を洗ってる。何故って洗顔フォームを使い終わったからね。確か6年っくらい前にさ。

何年も石鹸でお顔洗ってるって知ったお友達は 信じられないって怒った。それでもうっちゃってたらば、とうとうソウルから到来した。
お姉ちゃま良かったね。お顔はこれで洗うといいね。

そういや近頃だってパルファンちゃんにもナイチンゲールちゃんにもマダム・ビスコッティにも注意されたんだよ。

お姉ちゃまはお化粧下地ってものを持ってなかったんだ。モルタル塗るんじゃないんだのに下地が要るの? なんて変テコなこと言っちゃってさ、それでもってお化粧下地って何のため? なんてお尋ねしちゃってさ。叱られてしぶしぶ買ったばかりだ。

お化粧品のことじゃあテンデわかんない人だからね、水ありファンデーションを見て、どこにお水があるの? ってポニーテールちゃんに質問した。水ありって書いてるのに確かに乾いてる。

ポニーテールちゃんはとっても優しいからね、たっぷり5秒くらいはカタマッても優しく教えてくれたよ。お水をパフにつけてファンデーションを塗るのよって。

お姉ちゃまはご本に書いていないことをあまり知らない。また夢中になってるリルケにも水ありファンデーションは出てこないんだしね、お姉ちゃまも育たないんだ。


**


お見舞いはマカロンやトンカツがいいって書いといてって言われたよ。

 え? なぁに? マカロンとトンカツ両方? うん、わかった。
 え? 書いといてって言ったの内緒なの? うん、わかった。

お見舞いはマカロンとトンカツがいいんだ。僕は、書いといてって言われなかった。



気の毒なお話

June 02, 2009

僕、ブルゴーニュ。

上野さんに頬っぺをぐにぐにって撫でてもらってる僕。


僕はお姉ちゃまが心配で目が離せない。とても気の毒なことになってるからだよ。

土曜はまた治療ができなかった。膿がリンパの方へいって新しく腫れてしまった。炎症が酷くて触れないばかりか、お薬も注入しないほうが良いって言われたんだよ。

薬剤を入れると病原菌も元気になって戦おうとするから、お姉ちゃまが負けてしまうんだって。化膿止めの飲み薬だけで週末を過ごすことになったんだ。

僕は得をした。頓服も効かなくなってきたお姉ちゃまが痛がったものだから、僕はずっと一緒に居られたからね。

お顔も酷く腫れてしまった。一時的に左右のお顔の形が変わってしまったんだ。僕は泣きそうになって、気の毒だね気の毒だねって言った。

でもお姉ちゃまは変テコになったお顔を 記念にってご近所さんに見せに行ったんだよ。普段っから言ってた。顔なんて病気や怪我で簡単に変わるものよって。すぐ変わるようなものは大事なものじゃないってさ。だからってわざわざ発表しに行かなくてもいいんじゃないかなあ。

歩くと化膿に響いてとても痛いから、そろそろ歩くんだ。そんなにまでしても見せたいんだね。変わってるなあ。僕にはお姉ちゃまを止められないし、いつだってついてくしかないんだ。

お姉ちゃまが面白がったお顔を、他の誰も面白がらなかった。息を飲んで、気の毒そうに労わられただけだ。
ほらやっぱり。


**


陶芸家の田中穂積先生がお電話で慰めて下さった。お口がきけたら おナマを言ったに違いない。でもお姉ちゃまは口内が腫れてて発音ができないんだ。だからあまり話さず聞いていたよ。

先生は、貴女が大人しいと気持ち悪いなあって仰った。

お姉ちゃま気の毒だね。



僕の解説(6)だるまさんが転んだ

May 27, 2009

僕、ブルゴーニュ。

白丁花(はくちょうげ)が咲いてる。
おかわりお隣さんが挿し木をしてくれたんだよ。


気の毒なお姉ちゃまは新しい化膿箇所が腫れあがってしまって、痛んでちょっぴりしか眠れないんだ。お顔んとこまで腫れちゃったからね、化膿止めを飲んで氷で冷やして動けなくなってるよ。僕は看病で忙しい。

Maladroit(6)の解説だ。

お友達の皆さんは、口々にお姉ちゃまに尋ねたよ。あれれ? ってね。
留守番電話で好きですってことお伝えしたんでしょう?! ってね。
そのたんび お姉ちゃまはお答えした。あの留守電の後にだって色々とお話したんだのに、無かったことになってるってさ。

不思議だけど本当なんだ。誰にも理由がわからない。わからないで誰もが不安に思ってたんだ。お姉ちゃま以外の誰もがね、不安を感じてたよ。

僕は不安ってものが苦手なの。不安は目に見えないのに、うんとこさ大きいものみたく感じるしね。不安は遠くで見えてたり、近くで僕のお首を押さえ込んだり、どの道僕は息が苦しくなってハアハアする。

ハアハアしてると お姉ちゃまはみんなに言った。
-- 馬鹿馬鹿しい。もしふられたら どうだっていうの?
ふってみればいいじゃない、好きな間は何十回でも迫るだけよ。
ガタガタ騒ぐほどのことじゃないでしょう。

あ〜あ〜また仁王立ちだよ。女の人らしくしてたって、いざとなるとこんなものだね。人間って強いよ。
それに僕ね、今はもう人間の愛の告白の仕方を知ってる。人間のやり方は、ワンコのやり方と違ってるんだ。女の人がハードボイルドな感じでやるんでしょう?

お姉ちゃまはね、コイビートの人と進展できなくて、いやんなっちゃった。いやんなってもお姉ちゃまって人は落ち込まない。限りなく発散型だからね、うまくいかなければ それだって発表するんだよ。

-- なんなの貴方。

って低いお声でね。僕カタマった。だるまさんが転んだみたく。でもほら、人間の告白はこんな風って今は知ってるから。
それにお姉ちゃまってばお目めが見られないナンテ恥ずかしがっててもさ、スイッチが入ったら全部吹っ飛ぶからね。僕の平和は諦めなくちゃ仕方ないんだ。

-- 私が嫌いなの? 黙ってないで嫌いなら嫌いと言ってみなさい。嫌いで上等。3年かけて好きにさせてやるわ!
くどき倒してやるから覚えといてよ。アホウ!

シュールだ。

僕たちワンコはドSな告白ってしないんだ。人間は違うんだね。
僕、パーシモンに教えてあげようと思うよ。人間は愛の告白ん時、くどき倒してやるアホウって凄んだりするものだってね。 



マニアック

May 21, 2009


僕、ブルゴーニュ。

僕たちのお庭に僕たちのマーガレットが咲いてる。


僕知ってるよ、みんなはマーガレットのことなんかより、早くコイビートの人のお話を聞きたいんだね。

コイビートの人は女性にメチャクチャに辛いお点をつける。
コイビートの人がこれまで褒めた女性は一人っきゃいない。お姉ちゃまが尊敬してる、頭脳明晰でしなやかなキャリアの女性だ。褒めたものの、あとがいけなかった。"あの人はいいな。デキル女性だ。ババアだけどな。"

コイビートの人は どんな女性をも非道に貶すんだ。
美人さんを見ても "気品がない。"
溌剌とした若い子を "あんなもの女を感じない。"
大人しくって可愛い女の人に "頼りない。"

手厳しいお人なんだね。そんなのじゃあお姉ちゃまは相手にしてもらえないかもしれない。
それでも希望はあるんだ。何故ってコイビートの人は なかなかマニアックなご趣味みたいだからさ。

せんに昔々の彼女のこと話してたもん。お姉ちゃまみたいなタイプの女性だったそうだよ。
"桜みたいなキツイキツイ女で、すぐカーッとして、頭に血が上ると桜みたいに何処でも絶叫する子。" ってさ。

マニアックだ。

夫婦だって勘違いした人達に 奥様お優しいですねってお姉ちゃまを褒められる度、なんだか得意そうに言ってたもん。
"ああ見えて、そりゃあキツイ嫁なんです。" ってさ。

マニアックだ。


**


お姉ちゃまには数え切れない事件簿がある。事件ファイルの幾つか目はマイク・アトラクションだった。

言い寄ってきた男性を腹に据えかねた女の人は、普通どうするものかな。僕にはわかんないよ。そもそも女の人全員が好かれることを激しく毛嫌いするかどうか知らない。僕が知ってるのは お姉ちゃまの方法だけだ。

歩きながら告白風なお話になってカッときたお姉ちゃまは、路上の少年たちがお歌を歌おうと準備してるマイクをいきなり取り上げた。"六" とか "蛇見た" なんて音楽を歌う少年たちは、びっくりしたんだよ。何故って、女の人が物も言わずにマイクを奪ったんだからね。

三宮のお人がたくさん集まる場所だった。"六" とか "蛇見た" の音楽は大抵街の中心で歌われてるものだから。

お姉ちゃまは、その男性が如何に小ずるい言い寄り方をしたか、その告白が如何に理屈に合わないかを街の真ん中でマイクで発表した。みんなは唖然としながら物珍しそうに見物してたし、フルネームを連呼されてる当の男性は動くこともできなかったし、被害者の少年たちはただ怯えてた。

お姉ちゃまはスピーカーを通して酷いことを言い終えたらば、少年たちにアリガトってマイクを返した。シュールだ。
パリの街なかでは道端で大声で喚いてる女性なんかがよく居る。お姉ちゃまはそんなことも楽しんでたけどね、マイクで発表してる人は見なかった気がするなあ。

酷い事件簿に大層ウケて、もっと仲良しになったのがコイビートの人ってわけさ。

マニアックだ。



動物と人間のお医者様

May 16, 2009

僕、ブルゴーニュ。

僕は春の予防注射を受けた。


動物病院へ行く道で、お姉ちゃまにこっそり "やっぱ今日は帰ろうかな。" って言ってみたけど聞かれてないみたいだった。
動物病院の看板が見えたら お腹がピーになった。"ピーだから今日は辞める? " って言ったのも聞かれてないみたいだった。

先生のお顔を見たらハアハアなって腰が抜けた。空気を掻いても前に進めなくなった。ブルゴーニュ大丈夫だからねってお姉ちゃまの声を頼りに、前足でお姉ちゃまにしがみついた。お姉ちゃまが僕のおでこにチューしてくれて、次にお背中がチクッとした。

チュー・チクッってやり方に、僕はいつも騙される。それでも予防注射は終わったんだ。


**


ゴールデンウイークが明けた日から お姉ちゃまのお医者様通いは一日もお休みがない。お姉ちゃまはお医者様へ行くのも僕とお散歩へ行くのも おんなじ風にお出掛けする。お姉ちゃまはお医者様へ行く時 ピーにもならないしハアハアもしない。

今週は新しいお医者様へ行った。総合病院のシステムが変わるからって事情があるらしい。新しいお医者様ってことも お姉ちゃまには少しも関係ないみたいだ。なんたって大雑把だからね、やりたい通りにやるんだ。

お名前を呼ばれて診察室のドアを開けながら "待合室にブラームスなんて珍しいんですネ。" なんて気楽に入ってったよ。何故ってお姉ちゃまは待合室でウケてたんだ。普通は深刻なブラームスを病院でかけないものだからね。きっとお医者様個人のご趣味でしょうって考えてね、笑いながら入ってった。

鼻っから自分のペースだ。お医者様は、"音楽が好きで・・・毎朝選んでるんです" ナンテ患者さんみたいな感じで答えなさった。
だのにお姉ちゃまは それには応じないで病歴と経緯をはきはき説明した。自分のペースだ。


**


僕は忙しくお帰りなさいをして、すぐにおさらいを励ますお勤めをした。化膿したリンパを氷で冷やしながら一頻りドビュッシーを弾くと またお見送りのお勤めになった。次は口腔外科だ。

外科治療ではお椅子を倒してお顔に布をかける。見ると怖いしお顔にお水が飛んだり、事によると血液が飛んだりするからね。
でもお姉ちゃまは布を掛けないでって主張する。毎回のことだからお医者様も心得たものだ。

お姉ちゃまはいつも言うんだ。他人が自分の身体にしてることを自分が知らないでどうするのってさ。見ても見なくても実際起きてることに変わりはないって。そして治療をじっと見るんだ。シュールだ。

僕は何にも見ないでお姉ちゃまにしがみついてる間にチクッが終わるほうが断然いいな。
次回はドレスのお写真だよ。



僕の解説(5)かくれんぼ

May 12, 2009

僕、ブルゴーニュ。

お姉ちゃまが気の毒なことになってしまった。土曜日のことだったよ。急にお顔が痛いって言い出したんだ。


お顔とお喉の辺りが酷く痛むって泣きながら、頓服を飲んでいつも通りにおさらいしてた。コンサートはもうすぐだからね。大変に痛んだみたいでお首まで腫れちゃって、そのうちにお口も腫れあがったから何かわかんないまま口腔外科へ行ったんだ。

予約なしに押し掛けて割り込んで、センセ、痛いのを止めて! ナンテ涙をぼろぼろ流しながら迫るものだからさ。気の毒な先生は うんとこさ動揺しながら診てくれた。

虫歯じゃあないよ。歯の根が急性炎症を起こしたんだ。疲れと過労と、ひょっとしたら血液検査が良くなかったようなことに関係があるのかもしれない。持ってても平気なウイルスも、身体が弱ると大変なことになるんだね。なにしろ歯茎の中のね、歯の神経よりもっと奥のね、根っこんとこがすっかり膿んでしまったんだよ。

急性炎症は酷くって、歯茎の芯まで化膿しちゃった。麻酔も効かないくらい激しい炎症だった。お姉ちゃまは診察台で泣いて訴えてね、すっかり痛みを治してナンテ強引な要求をしてるんだ。泣いてても主張だけはするんだね。
元気な歯を歯茎んとこまで削ってね、真ん中に大きな穴を開いて化膿の治療をしたんだよ。

お陰で僕は得をした。痛みと疲れと麻酔のショックでふらふらで帰ってきたお姉ちゃまは寝込んでしまったから、僕はお姉ちゃまに好きなだけくっついて居られたよ。


**


Maladroit(5)かくれんぼの続きを書かなきゃならないね。

お姉ちゃまはお医者様近くでコイビートの人にお電話した。これから行くこと、お知らせした。
歩道を走った。急いでドアを開いた。エレベータも待ち切れないで、階段を駆け上がった。

《朝の風冷たくもわが前髪に玉なせと結びやしけん
野の露に総の身ぬれてわれは来ぬ。》
ヴェルレーヌの詩みたくね。

階段、踊り場、階段、踊り場・・・早く会いたくて、お姉ちゃまはエレベータよりも速く駆けた。
息を弾ませて最後の踊り場から飛び出すと、思いがけずコイビートの人が 階段すぐ側のエレベータ前でお迎えに立ってた。

いつものかくれんぼはできなかった。飛び出しちゃって隠れる場所がなかったからさ。
コイビートの人はお姉ちゃまをちょっと見た。
お姉ちゃまもコイビートの人をちょっと見た。
息が詰まった。辺りの音が聞こえなくなった。

それからどうしたって?

二人して廊下を黙って歩いたよ。
3歩も4歩も離れたまんまで。

離れてたけど、お姉ちゃまは手を繋いで歩いてる気持ちだったんだって。



お裾分け

May 08, 2009

僕、ブルゴーニュ。

おかわりお隣さんと僕んちの間にフェンスがある。


お隣さんは2つあって、お手をする前足側のお隣さんと おかわりをする前足側のお隣さんが居るんだ。

フェンスを通って色んなオヤツが交わされる。僕はそれを見るのが大好きで、食べるのはもっと好きだよ。
大抵はお姉ちゃまのオヤツになるものがやってくる。でも時々僕のオヤツもフェンスを通ってやってくる。

チューリップに礼肥をあげてたおかわりお隣さんは、お庭の僕たちにフェンス越しに言ってくれたよ。"桜ちゃんも肥料やる?" ってね。そうして油粕を分けてくれた。

ああ油粕ね、知ってる。骨粉の次に美味しいやつだね。食べ過ぎるとお腹痛くなるけど、何か一口つまみたい時には油粕のほうが具合がいいんだ。
何故って骨粉を掘り返してオヤツを楽しんだらば、お口の周りが白くなって すぐにバレちゃうからさ。

お姉ちゃまはチューリップにたっぷり油粕をやったから、チューリップは僕にお裾分けをくれた。
チューリップの裾んとこの土を掘り分けてね、ちょっと油粕なんか頂くことをお裾分けっていうんだってね。



聞きたいこと

May 05, 2009

僕、ブルゴーニュ。

レモンカナリアちゃんに、もっと撫でてねって甘えてる僕。


"一つ聞きたいことがある。" ってコイビートの人が言った。

コイビートの人は時々こんな言い方をして、お姉ちゃまをちょっぴり緊張させる。お姉ちゃまは、はいってお返事する。
きちんとお答えしようって、お姉ちゃまは背筋を伸ばす。

伸ばしたお背中から急に力が抜ける。
コイビートの人が聞きたいことは、ピアノの周波数のことだったからね。
次の聞きたいことは、ダイニングルームの面格子のことだった。

そんなだからお姉ちゃまは、一つ聞きたいことがあるって言われても段々に緊張しなくなってった。


**


また同じ風に質問された。僕は前足を舐めながら まったりしてた。
今度もきっとモーターの回転のことでも聞かれるんだろうなって思った。それとも金属溶接のことかな?

"結婚したくないのか? "

不意打ちだ! 不意打ち過ぎる! 和んでた僕は泡食った。お口からおヨダの泡が出て前足にくっついた。

-- したいわ。独身主義じゃあなくて、ただ結婚できてないだけよ。

お姉ちゃまは、結婚できないことを普段からネタにしてるんだ。
お師匠様のサークルだってそうだ。みんな順にお名前と旧姓を言って自己紹介をする。お姉ちゃまはマイクが回ってくると "今年もまだ旧姓だけの落合です。" とか自虐ネタを披露する。

可笑しい言い方だったのにコイビートの人は笑わなかった。せんに結婚する予定だった人とのことを破談にしたのは何故なのかって尋ねた。
いきなりだ! いきなり過ぎる! 僕は緊張でハアハアした。

お姉ちゃまはスッタモンダをしたり婚約したり解消したり お馬鹿なことばっかやってきたのを少しも隠してない。隠してないけど、パリの婚約のことをどうしてコイビートの人が知っているの? って不思議そうなお顔をした。

"婚約したってお母さんの友達から聞いてた。そのまま結婚したと思ってた。ずっとそう思ってた。"
核心に迫ってこられて 僕はハアハアしながら後退りした。
ママのお友達ってば おしゃべりだ! おしゃべり過ぎる!

僕も一つ聞きたいことがある。
僕はいつかハアハアしないで二人を見てられるようになるの?



僕の解説(4)花一匁

April 28, 2009

僕、ブルゴーニュ。

ポニーテールちゃんに 一緒に遊ぶ? って聞いてみてる僕。


続きの解説を書かなきゃなんない。お姉ちゃまはMaladroit(4)花一匁のこと、みんなに酷く叱られた。

正直お姉ちゃまは、日本人の彼氏とお付き合いしたことが少ないんだ。だからかなあ・・・、僕は君といつどこで此れ此れがしたいって文章構成要素みなまで言われないと お誘いってわかんない。
〜あの子じゃわからん 名を呼んでおくれって花一匁みたくね。


**


お名前と言えばね、コイビートの人はお姉ちゃまのこと桜っていう。みんなみたく桜ちゃんって呼ぶのは稀だ。これは重大事件なんだ。

何故ってお姉ちゃまは、男性が名前だけを呼ぶことはパパだけにしか許してこなかった。これまでの彼氏にだってね、呼び捨てられることを了承しなかった。名付けてくれたパパだけの、おとっときの特権だからなんだって。
ファザコンってご病気だからね、仕方ないんだ。僕がかかってるシスコンって病気と同じっくらい重いんだ。

コイビートの人は呼び名の事情をよく知ってた。呼び捨てなんてしたらば、軽蔑の一瞥と非道な言葉を浴びせられることも知ってた。

驚いたことに、それでもコイビートの人は桜って呼んだんだ。
驚いたことに、お姉ちゃまはハイってにっこりした。

僕はお耳が跳ね上がるっくらいびっくりして、これは重大事件だぞって思ったんだ。こうして、もうせんコイビートの人は特権を獲得した。
獲得してこんな風なおしゃべりをしたんだね。

"桜、夫婦用の可愛い二人鍋が売ってたよ。"
-- まあそう、私は寸胴鍋を使っているのよ。

メチャクチャだ。


**


皆にうんと叱られたお姉ちゃまは、ネコヤナギ君にも叱られた。
ネコヤナギ君は怒りながらやって来て、アンタ、あの人が迷惑したと本気で思っとるのかって注意した。

お姉ちゃまが わかんない・・・ってしょんぼりすると "アホぬかせ。" って言った。お姉ちゃまのお友達は大抵荒っぽいからね。
そうしてネコヤナギ君は "考えてみたんや。眼鏡かけとる人やろ。" って言った。

ネコヤナギ君は長いお友達だから どこかでコイビートの人とニアーミスがあったらしい。
お姉ちゃまったら真っ赤になってるのを誤魔化すために、ブルゴーニュお水が欲しいのネ? って立ち上がったんだ。僕はお喉なんか渇いてなかったけど、空気を読んでお水を飲んでみせた。

ネコヤナギ君は水道の所まで追ってきた。
お姉ちゃまは聞こえないふりで、ブルゴーニュはシーしたいんでしょう? って言った。僕はシーなんかしたくなかったけど、ご不浄でシーの格好をしてお腹に力を入れた。僕も色々と大変なんだ。

ネコヤナギ君は "やっぱりな、あの人か。" って頷いて お姉ちゃまを荒っぽく慰めた。
"安心せえ。あれは義理堅い男や。アンタがどんなにヘチャムクレでも、ここまでしてくれた女を放り出さん。"



僕の解説(3)ハンカチ落とし

April 24, 2009

僕、ブルゴーニュ。

プレーリードッグちゃんに可愛がられてる僕。


Maladroit(3)ハンカチ落としの後ろには、もう一つのハンカチ落としがあった。

僕はそう思ってるよ。みんなもそうだって言う。

お姉ちゃまはね、コイビートの人へハンカチを落としたのに気付いてもらえなかったって嘆くけれど、コイビートの人が落としたハンカチには気付かなかったんだ。

コイビートの人はね、病院で嘘っこの発表をしたってお姉ちゃまにお話した。
怒らないで聞いてほしいってお話を始めた。人様にどんな風に答えたかって たくさんお姉ちゃまに伝えたんだ。お互いの仕事にどんな立場でいるかとか、うんと具体的なことだよ。

お姉ちゃまはびっくりした。
びっくりし過ぎて、またメチャクチャなことになった。

-- ごめんなさい! 違うって言えば良かったのに! ごめんなさい!

お姉ちゃまは凄い勢いで謝った。僕はポカンとお口が開いた。コイビートの人も茫然となった。

お姉ちゃまはね、とっても後悔したんだよ。お姉ちゃまの行動で病院の人達に勘違いをさせたこと。
お医者様へ行くと、食べ終わったご飯やお吸い物の蓋をパカパカ取ってみて "うん! 全部食べたのネ。良かった♪ " って褒めてあげてたりね。お節介なんだ。

看護士さんが取り替えにきた点滴の袋が前のと違ってたら、これでいいんですか、お薬が変わったんですかって走ってってお尋ねしたりね。病院も色んなことがあるからね、不安なんだ。

そんな自分のせいでお嫁さんって思われて、コイビートの人が迷惑したって考えてね。思いっきり謝ったんだ。
ごめんなさい、今度ちゃんと違うって言って! って叫ぶみたいに言ったんだ。

コイビートの人は、そうじゃないって答えた。
勘違いされて訂正しなかった事情があるんだって答えた。

でもお姉ちゃまは泣き顔でイヤイヤをした。迷惑だったって言われるに違いないって思ってね、聞きたくなくってイヤイヤをしてるんだ。
メチャクチャだ。

コイビートの人は当惑して、それからお姉ちゃまに謝った。
ごめん、って。
メチャクチャだ。

僕はお姉ちゃまの手を舐めて慰めたよ。一生懸命舐めてあげてるうちに泣きたくなった。

   明日はお姉ちゃまが この後に起きたことを書くらしい。



ドレスリハーサル

April 20, 2009

明日はギャラリー島田のコンサートです。どうぞお出まし下さいネ!


お姉ちゃま、ドレスリハーサルするの?

僕ね、お膝にお顔を乗せて ピアノを聞くのが大好きだよ。
おヨダが付くから離れなさいって言われちゃったの。

じゃあさ、長〜い裾をお布団にしてもいい?
よいしょっと。

薔薇飾りの下にもぐり込むと具合がいいね。

気持ちいいなあ!


ブルゴーニュ君はおさらい中、裾を被って眠っていたワ(溜息)
次回はドレス全体のお披露目です。



僕の解説(2)にらめっこ

April 16, 2009

僕、ブルゴーニュ。

プレリードッグちゃんのお膝から はみ出してる僕。


Maladroit(2)にらめっこの解説を書かなくちゃ。

雑誌の表紙にコイビートの人のお名前が大きく出てるのを見つけた。コイビートの人のロングインタビューが載ってた。十数ページぶち抜きの特集だ。お姉ちゃまは嬉々として何冊も買った。

コイビートの人は今月号のことだのに、お姉ちゃまに教えてくれなかった。お姉ちゃまは自分の特集なんか興味ないって思ってるの?
コイビートの人ってば、間違ってるよ!

お姉ちゃまは偶然見つけて買い込んだけど、そのことコイビートの人に言わないんだよ。私はただのファンに過ぎないからって。
ファンの行為をいちいち報告されても ご当人は面倒臭いだけでしょう、だって。
お姉ちゃまってば、間違ってるよ!

兎に角コイビートの人は記事のことを今もって教えてくれないし、お姉ちゃまは雑誌を持ってるって今もって言わないんだ。

2人共どうなってるのかなあ・・・
コイビートの人は、一緒に居るとお姉ちゃまが迷惑かもなんてメチャクチャなことを尋ねてるしね。それでもってお姉ちゃまときたら、びっくりし過ぎてご返事しないものだからもっとメチャクチャだ。


**


メチャクチャは続いてた。コイビートの人はみんなの前でメチャクチャな嘘っこをついたんだからね。
コイビートの人が一方的に惚れても、お姉ちゃまに全然相手にされなかったって発表しちゃったんだからね。

あれれ・・・?
どこかで聞いたお話だよ。お姉ちゃまが片思いを発表しちゃったお話と似てるなあ。
お姉ちゃまは、30回ふられる気なんだね。
コイビートの人は、付き合ってもらうのに3年かける気なんだね。

ということは・・・
1年に10回ずつふられたら 計算が合うね。
コイビートの人が付き合ってもらうのにかけてる1年で、お姉ちゃまが10回ふられるコースを 3クールしたら、2人の数がピッタリになるね?

僕、何の計算してるんだっけ・・・
計算はピッタリなのに、答がわかんないや。



僕の解説(1)通せんぼ

April 14, 2009

僕、ブルゴーニュ。

レモンカナリアちゃんに、抱っこしてってお願いしてる僕。


コイビートの人とお姉ちゃまは、ちっとも進展しない。未だに手も繋げてないんだから困っちゃうね。
僕は手なんかとっくに繋いだよ。コイビートの人はすぐに "お手" って言ったもの。お姉ちゃまにも "お手" って言えばいいのにね。


**


お姉ちゃまが書いたMaladroit(1)通せんぼにはね、実はお姉ちゃまが知らない続きがあったんだ。

コイビートの人は長い間バイバーイって手を振ってた。
お姉ちゃまの姿が見えなくなって戻ろうとしたら、看護士さんたちが "奥様ほんとにお優しいんですね〜。仲いいんですね〜。" って冷やかしたんだよ。
コイビートの人はね、ポカンとして何にも言わなかった。言わなかったことが噂に火をつけたんだ。

コイビートの人は、同室の患者さんや看護士さん達に ひっきりなしにお姉ちゃまのことを言われ続けた。お姉ちゃまと会ってない別の階の人までが、看護士さん達の噂を聞きつけてくることになった。

何故って病院はね、お年を召した人とお寝間の人ばっかが歩いてる。お姉ちゃまはお年を召した人だけど、お寝間じゃなかったから目につき易かったんだね。みんな暇にまかせてお姉ちゃまの噂を始めた。会計のおばさままで噂を始めた。

コイビートの人は 知らない人からも根掘り葉掘り質問責めになったんだよ。
どうやって結婚したんですか、だとか
どこで見つけてきたんですか、だとか
おうちで何て呼び合ってるんですか、だとかってね。

あんまり酷く質問されて、ビックリしてる間に収拾がつかないくらい噂が大きくなっちゃった。そうして何を思ったか 急に、本当に突然に、とてつもない嘘っこをついたんだよ。

"こっちが一方的に惚れてても はじめは全く相手にされなくて、付き合ってもらえるまでに3年かけました。"

?!
           ?!
     ?!

僕の周りの人達って、急にとんでもないことを言い出す人ばっかなのかな・・・。家庭犬は安穏と暮らせるって聞いてたけど、実はなかなかヘビーなものだね。

次回はお姉ちゃまの番だ。お医者様でのお話が続くよ。



どうして

April 08, 2009

僕、ブルゴーニュ。

みんなが一杯質問してくるからさ、コイビートの人のこと またちょっぴり教えてあげるね。


時々居るよね、お話ができないとか お話にならないとかって人。
コイビートの人は、それなんだ。


**


コイビートの人は、せんにも入院したことがあった。
そして病院を抜け出してね、お医者様に大目玉になったんだ。

お姉ちゃまは言ったんだよ。どうして抜け出したりするのって。
そんな時のどうしては、理由を尋ねてるんじゃあないよね。
僕だってわかる。叱られてるんだよね。
パーシモンが ちっちゃい時言われてたもん。"どうしてこんな所でシーしちゃうの" ってね。

お姉ちゃまが叱ってるのに、コイビートの人はどうしてかを答えるんだ。
"バッタが捕りたかったから。" ってさ。

お姉ちゃまは、どうして入院中にバッタなんか捕らなきゃならないのって泣きそうになった。
コイビートの人は普通っぽく答えるんだ。
"蛙釣りの餌にするから。" ってさ。

お姉ちゃまは、どうしてなのぉって大きいお声を出したんだ。
コイビートの人はね、え? 蛙釣りにはバッタが丁度いいから、ナンテ言ってね。

お姉ちゃまは、だからどうして入院中に蛙を釣らなくちゃならないの! って怒ったんだ。
コイビートの人はね、あの種類の蛙は中華料理屋さんに売れるからって答えたよ。コイビートの人って蛙を売るご職業だったかなあ・・・

お姉ちゃまは悲しいお顔で訴えた。どうしてなの、どうしてそんなことをしなきゃならないの? ってね。身体をとっても心配して不安だったんだよ。
それなのにね "田圃があって蛙が居たから。" だってさ。

お姉ちゃまは、あの方はお話ができないって言ってる。


**


これがせんに起きた蛙釣り事件だった。
今度は淡路島事件なんだ。

退院してすぐの2日間、携帯電話が不通になった。おうちにも会社にも居なかった。
お姉ちゃまは、それはそれは心配したんだよ。また救急車で運ばれたのかもしれないって。

お姉ちゃまは酷く泣いて、たくさんお祈りをした。みんながお姉ちゃまを慰めて、一緒に心配した。
僕は得した。お姉ちゃまは僕をいっぱい抱っこしてギューしながら悲しんでたからね。
ギューされても今は悲しいお顔をしなきゃならないって知ってたけど、お尻尾は言うこときかないんだ。

3日目の朝になってお電話を受けた。
病院に居たから出られなくてごめんってね。
お姉ちゃまはワッて泣きながら、何があったの? って悲しんだ。

コイビートの人はね、淡路島に居るって言うんだ。
退院してすぐだのに、お泊まりでお友達をお見舞いしてたんだ。
コイビートの人はお友達がたくさん居るからね。
頭の先から爪先まで体育会系だから、お友達第一なんだよ。

お姉ちゃまはね、金切り声になったよ。どうして今なの? どうして今こんな時に淡路島へ行かなきゃならないの? ってさ。

コイビートの人は答えた。
"淡路へ行く自動車道、週末半額だから。"

お話ができないんだ。



ハンサム

April 05, 2009

僕、ブルゴーニュ。

プレーリードッグちゃんは、僕のことをハンサム君っていう。でもね僕よりハンサムなワンコが居るんだよ。


お姉ちゃまがお化粧するドレッサーがある。
お姉ちゃまが座ると、向こう側にもう一人お姉ちゃまが現れる。
不思議だなあって思って 毎日見てる。
僕はお姉ちゃまがお化粧をするのを見てるのが好きだからね。
それでもって、お姉ちゃまが何してるときも見てるのが好きなんだ。

向こう側には、もう一人のお姉ちゃまを見てるワンコが居る。
あの子はとってもハンサムだ。
向こう側からこっちに来ない。
お行儀もいいんだね。
僕はあの子みたいにハンサムでお行儀のいいワンコになりたい。

コイビートの人はハンサムじゃない。ハンサムじゃあないけどお姉ちゃまはコイビートの人のお顔が大好きなんだ。
頬杖をついたお顔に見蕩れて ちっともお話を聞いてないくらいだからね。ぽぅって見てたら急に話しかけられたものだから、ビックリして お顔赤くして慌ててるんだもん。僕のほうが恥ずかしくなっちゃうよ。

ハンサムじゃないコイビートの人は、お洋服だってハンサムじゃない。
10年っくらい着てるみたいなシャツと 20年っくらい履いてるみたいなGパンだ。
お姉ちゃまはお尋ねした。スーツを着ることってあるの? って失礼なお尋ねをした。

コイビートの人はね、
"あるよ、結婚式と葬式。" だってさ。

僕は毎日ブラックスーツだ。
僕も10年っくらい同じの着てるけどね。 



起承転(4)最終回

April 02, 2009

僕、ブルゴーニュ。

プレーリードッグちゃんにギューされてる僕。
昨日の続き、最終回を書くよ。


お姉ちゃまはお勤め先へ向かった。何度も行ってる場所だ。
コイビートの人の自動車が見えた。
お姉ちゃまは自動車に近づいた。
フロントガラスに鳩の落し物がくっ付いてた。
お窓をティッシュで拭ってあげながら気持ちを静めたんだ。

何を言うか用意をしないでおこうって決めてたって。
お顔が見られたらいい。生きてればいい。
自分が言ったことは取り消さない。
それだけ決めてたって。

コイビートの人は、いつもなんにも言わない。
入院中だって、お姉ちゃまのリサイタルちらしをコピーして患者さん達に配ったり 病院の冊子ラックにも入れに行ったりばっかした。

それだのにお姉ちゃまには、なんにも言わない。
言わないのは それってただ友情だからかもしれないね。
友情なのに、ホレてるなんて言われて困っちゃったのかもしれないね。
困っちゃわなくていいのにね。
お友達まで辞めたいくらいに嫌だったのかな。
お姉ちゃまはそんなにも嫌われてたのかな。

お姉ちゃまがお電話しても口もききたくなかったのかな。
仲良しだった友情を汚された気持ちになったのかな。
もうお姉ちゃまとお話してくれないのかな。

息を吸って、コイビートの人のお机があるお部屋のドアを押した。
袖からステージへ出る時みたく 緊張して集中してた。
背筋を伸ばしてお部屋の中へ踏み出した。


**


2人の目が合った。


**


"おおっ! "

コイビートの人は気持ちいい笑顔でお姉ちゃまに手を挙げた。

おおって・・・
張り詰め切ったお姉ちゃまは、予想もしなかった反応に茫然自失した。

連絡取れなかっただろ? って笑顔で側へ来た。

取れなかっただろって・・・
お姉ちゃまはお声も出なかった。
最高潮の緊張と集中でステージに出て もしピアノがなかったら、こんなお顔になるんだろうねって思う。

親戚が危篤で泊まりで地方へ行って、そのままお葬式になったって。
今帰ってきたって。
おうちの留守電はさっき聞いたって。
後で電話するって。
優しいお顔で笑った。

お姉ちゃまはズイッて前に出た。
-- お友達まで辞めるって言われるんじゃないかって、聞きに来ました。

コイビートの人はポカ〜ンってお口を開けて、ぶんぶんぶんぶんってお首を何回も横に振った。物凄くびっくりしてた。

気を取り直して、お部屋に居たお客様にいつも通りにお姉ちゃまを紹介した。お姉ちゃまはその時はじめて、お部屋にお人が居ることに気がついたんだ。


**


コイビートの人は普通だった。
お姉ちゃまも普通に帰ってきた。
ほらね、行って良かったでしょって普通に言った。

ハラハラして必死で待ってたみんなは、報告を聞いてグッタリした。

僕も猛烈に疲れて爆睡した。



起承転(3)聞きに行く

April 01, 2009

僕、ブルゴーニュ。

続きを書かなくっちゃね。
大変なことが起きたんだもん。


留守電にホレてるって録音するナンテ、乱暴すぎるね。
それっきり連絡が取れなくなっちゃった・・・。

緊急親族会議が開かれた。
もちろん僕だって参加した。
僕はおうちで開かれるあらゆることに参加する。

お姉ちゃまは、こんなことになっても仁王立ちを辞めなかった。

-- あれは私の本当の気持ちよ。率直な気持ちよ。
取り消したり、言い訳したりするつもりはないわ。
後悔してない。必要だって考えたから口にしたんだもの。

みんなは口々に考えを言った。
"ただ避ける方には思えないから、とっても重く受け止められて結論が出ないのかもしれないわね・・・。"

"お電話の前に病院で、治るまで付き合うって言ったんだったわね?
治ったら貴女がどこかへ行ってしまうって思ってらっしゃらない? "

"まさか同情だと思われたんじゃあないかしら。貴女がとても同情して、愛情と取り違えてるなら良くないってお考えなんじゃないかしら。"

お姉ちゃまは、みんなそれぞれ一理あるって言った。

-- でもね、考えたってわかんない。わかんないから聞きに行く。
何を聞かされもいい。変な擦れ違いだけはしたくない。
私に好かれて嫌だとしても、友情まで捨てて拒絶するようなこととは思えない。
わからないことは聞けばいいのよ。今から行きます。

僕は、緊張でハアハアした。
みんなもハアハアした。

お姉ちゃまは バッグにお財布と口紅と楽譜を入れた。
こんな時でも 乗り物の中で暗譜を確認しようってことみたいだ。

"どこへ行くの? 会社にいらっしゃるの? ほんとに行くの? "

-- 居るかどうか知らない。でも行ってみる。
これは大事なことなの。
大事なことにびびるなんて みっともない。
大事なことほど、びびってる場合じゃない。

誰も なんにも言わなかった。
お侍さんみたいになっちゃってる時のお姉ちゃまは、みんなの方が諦めるしかないんだ。

アッという間にご用意できて、お玄関口でダメ押しした。

-- 緊急入院された時ね、あれほどの恐怖は無かったわ。
何を言われたって、あの時ほどは怖くない。
生きててくれたら何でもいいわ。生きてる顔を見に行くのよ。

僕たちはハアハアして お見送りした。
ハードボイルドだ。

次回はこのお話の最終回です。



起承転(2)丁半

March 31, 2009

僕、ブルゴーニュ。

ジュリアンがこんもり咲いた。
昨日の続きを書くよ。


みんなは驚き過ぎて、とうとうグッタリした。
僕はみんなの緊張が伝わってお喉がカラカラになったから お水を貰って飲んだ。

みんなは、時と場合があるでしょうって泣きそうになってた。ネコヤナギ君はちょっと怒ってた。
でもお姉ちゃまは全然怯まないんだ。

-- 時と場合に従ったのよ。
脇からただ心配してるって表したって今は意味がない。
遠慮しながらしてもらうんじゃないって解ることが必要なのよ。
私がホレてるから、私がしたいんだって伝えることが必要なのよ。
今必要なのよ。
こんな時に全力で助けなくて いつ助けるっていうの?
悠長なことやってる場合じゃないわ。

僕は、お水のなくなったボールをちょろちょろ舐めてた。もうちょっとお水ほしいナって言える空気じゃなかったもん。

留守電なんて常識がないって叱られもしたよ。
それでも怯まないんだ。

-- 恋愛に常識なんかあってたまるものですか。
言い直しが効かないから良いのよ。
100回だって聞き直してもらえば良いわ。
それで困るようなら 初めから言いやしない。

僕たちワンコは、大体は男の子から好きって言うんだよ。僕はパーシモンに伝えたよ。一緒にお散歩に行って一緒に木の匂いを嗅いだりしながら それとなくね。
また一緒にお散歩に来ようね、ナンテね。優しく伝えるんだよ。
パーシモンはちょっぴり恥ずかしがってて そこがまた可愛いんだ。 

人間はちがうんだね。女の人がお侍さんみたいな感じで凄むんだね。
まるで丁半博打の雰囲気でやるんだね。
それでもって仁王立ちでタンカを切るんだね。
パーシモンは仁王立ちなんかしないよ。短い手足でチョコチョコ歩いてね、可愛いんだよ。

                     **

ところがね、数日してお姉ちゃまはビックリすることを言ったんだ。
"ねえ、留守電に入れてから4日経つのに折り返しがないの。それにね、あれ以来ふっつりお電話に出て下さらなくなったの・・・。"

このお話は、まだまだ続くんだ。



起承転(1)留守番電話

March 30, 2009

僕、ブルゴーニュ。

お庭ではプラムのお花が咲いた。
お家では事件が起きた。


せんにみんなは言ったんだ。片思いのこと発表しちゃって、うまくいかなかったら困らない? って。

お姉ちゃまはお答えしてた。
困らないわよ。あの人にふられたって ちっとも恥じゃないわ。
うまくいかなければ、いかないなりに面白いじゃあない? 恋が成就するブログより 失恋のお話のほうが読んでて面白いってものだわ って。

もしもふられちゃっても、へっちゃらなんだって。
20回や30回、同じ人にふられてみるのも人生の肥ってさ。
お姉ちゃま、やる気あるなあ!


**


みんなはまた言ったんだ。あの方は貴女に仰るかしらねえって。
お付き合いしてくださいって ご自分は仰れないことはない? だってこんな大病をしちゃったんだもの・・・って。

これにはネコヤナギ君が猛反対した。
後々のことを考えれば、何としても相手から言わせにゃあならんって頑張った。
総動員で ああでもないこうでもないって大騒ぎだ。

ネコヤナギ君以外のみんなは意見した。
"今までは いつか言おうと思ってらしたとしても、気持ちがあっても、もう言い出せないんじゃないかしらねえ・・・。貴女のことを考えれば考えるほど、あの方は仰らないと思うわよ。"

お姉ちゃまはうんうんって聞いてから、ヨシ! って受話器を掴んだ。
留守番電話になってた。
留守番電話がピーッって鳴った。
お姉ちゃまはお腹から声出して、しっかり ゆっくり はっきり言った。

"桜です。調子どうですか。私は、貴方に、めちゃくちゃホレてます。
またお電話します。"

?!
               ?!
       ?!

え・・・?
お姉ちゃまが、やっちゃった・・・!
今の、留守番電話に入れちゃったの?!

なんてことするの?! って、みんなぶっ飛んでクラクラしてお顔が青くなった。
僕だって青くなりたかったけど、僕のお顔は黒いまんまだった。

続きは次回に。



携帯に女性の声

March 28, 2009

僕、ブルゴーニュ。

お姉ちゃまのP706iμだ。
シャンパン色が好きなんだ。


僕とお姉ちゃまは、信じられない光景を これまでに何度も見た。
コイビートの人は、携帯を会社の人にすぐ渡しちゃうんだ。

お席を外すときや、忙しいとき "かかってきたら出ておいて" って辺りの人にすぐにポイッて渡しちゃう。
初めはびっくりした。
いくら秘密がなくっても、携帯ってそういうものかなあ・・・

携帯には、お姉ちゃまの着信履歴もいっぱい入ってる。
それでもって、メールはお姉ちゃまのしか入ってない。

何故って、コイビートの人はついこの間まで携帯メアドが無かったんだからね。入院中に連絡するのに携帯アドレスを作ってって お姉ちゃまがお願いしたんだ。
コイビートの人は、この携帯でメールできるのか? って聞いた。ちょっと変わってるんだ。

そんなだから、お電話して女性が出てもお姉ちゃまは驚かなかった。
会社の女性は言ったんだ。
"コンニチハ。落合さんからかかったら伝えてほしいと伝言を受けてマス。"

お姉ちゃまは、まただわ・・・ってくすくす笑ってた。
だっておかしいよね。携帯の使い方、絶対間違ってるよ。




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